抜け殻正社員

僕もパートナーの吉田先生を見習ってたまには「経営」の話でもしようかな。

今週の日経ビジネスの特集は読み応えがありました。「抜け殻正社員」はその第1特集。偽装請負は昨年より国会でも取り上げられるほどの話題となり経団連会長の御手洗さん率いるキヤノン偽装請負問題、あるあるⅡの捏造問題、今年10月に民営化される郵政公社合理化の不具合などが書かれていました。以前パートナーの吉田先生も自身のブログでキヤノンについては辛らつ?なコメントを載せていますね。

http://d.hatena.ne.jp/eqyoshi/20070301
http://d.hatena.ne.jp/eqyoshi/20061108
http://d.hatena.ne.jp/eqyoshi/20061017
吉田先生は日経ビジネスの取材姿勢によく疑問符をつけていますね。特に経営者サイドに偏りがちなところ。僕も同じような印象を持つことがしばしばありますが、今回の特集「抜け殻正社員」は切れ味鋭く日本企業の病巣をえぐっていると思います。なにしろページトップでキヤノンの請負社員の大野秀之さんら3名写真入りでご登場です。

リーダーの名前は大野秀之(32歳)。業務請負会社のアイラインに登録し、キヤノンの宇都宮光学機器事業所で半導体露光装置用の非球面レンズの研磨加工をしている。・・・2006年12月に同じ職場の請負社員25人で労働組合を結成。支部長になった大野は今年2月、衆議院予算委員会の公聴会に招かれて「偽装請負」の実態を訴えた。
請負社員の待遇改善は喫緊の課題である。偽装請負は紛れもなく違法行為である。しかし大野は自分の身を案じているのではない。・・・・もっと根源的な不安を感じている。
「このままでは日本のメーカーは、モノが作れなくなるのではないか」製造業の命であるモノ作りを外部労働者に丸投げし、自分たちは管理業務しかない。そんな正社員の集団である大企業が、みるみる「抜け殻化」しているように見える。
日経ビジネス 07.4.2 より抜粋

大野さんの仕事はいわゆるレンズの研磨です。完璧に磨いたレンズを流し台で洗うときコツンとぶつけたら2000万円水の泡。検査工程も10台の測定器で計測。相当実務経験をつまなければ成し得ないデリケートな業務だと思います。

2004年に入ると状況が一変した。キヤノン本社が「現場にトヨタ生産方式を導入する」と宣言し、この日を境にベテラン正社員が生産ラインから姿を消した。・・・・現場に残った正社員は管理業務に専念し、実作業には一切タッチしなくなった。
2005年5月、キヤノンは大野たちとの契約を請負から派遣に切り替えた。2004年3月に施行された改正労働者派遣法で、製造現場への人材派遣が可能になったからだ。・・・・ただし、派遣の場合は1年以上雇用しつづけると、本人の希望を聞いて正社員に登用しなくてはならない(現在は3年)
「ひょっとしたら正社員になれるのか。」大野らが淡い期待を抱き始めた2006年5月、キヤノンは契約を再び請負に戻した。そして10月、新聞報道などで偽装請負が社会問題化すると、今度は大野たちがいる職場から正社員全員が引き揚げた。
日経ビジネス 07.4.2 より抜粋

そして正社員は誰もいなくなり、請負社員だけとなったようです。労働条件も過酷で一日12時間労働、作業中一言も口を利いてはいけない、一緒に飲みにいくことも制限されて大野さんの給料が一ヶ月28万円。時給換算でざっと1000円。誰も続かないですよねこの条件ですと。
社会保険・退職金・年金の負担が減るという‘うまみ’を知ってしまうとやめられなくなる「請負・派遣依存症」が日本の製造業(多分大手企業)を蝕んでいます。結局経済界の要請に振り回されて行動軸が定まっていない政府や行政の責任は重大ですし、大野さんたちはその一番の被害者といえるかもしれません。
僕は派遣や請負の制度や組織自体を悪いこととは思わないですし必要なものであると思います。ただ利益至上主義、成果主義一辺倒のツケを払う一番の犠牲者が派遣や請負の方々であってはならないと思います。この問題はこれからも注視します。